介護度の改善が評価される制度へ



Ⅰ.〈はじめに〉

 新聞紙面によると平成27年5月4日、元岩手県知事、元総務大臣が座長となる「日本創成会議」が昨年の全国896市町村が「消滅可能都市」となる推計結果の発表に次ぐ衝撃的発表を行った。
それは2025年には東京都とその周辺3県で約13万人分の介護施設が不足し、その解決策として比較的介護施設の整っている地方都市に高齢者の移住を促進との提言である。
ことの内実はともあれ、私はこの時代認識は同感である。(それを意識して昨年8月19日に「今特養に何が必要か」と題して私どものホームページ「理事長のつぶやき」の中で2025年問題は都市問題である、都市高齢者は死に場所を失くしている、との趣旨の文を記している。一読あれ)
さてそのような認識のもとにいわゆる団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になる頃の問題2025年問題への対応が国を挙げて語られている。
私どもはその社会的状況の中いわゆる「自立支援型介護」の実践に4年弱の時間が経過した。その結果当初の目標である施設利用者の自立に向けた介護技術の習得とそれの体系化、ひいてはその理論化への作業が遅々とはあれ、少しずつは進んでいる。また、同時に利用者自身の介護必要度の改善も進んでいる。すると当然のように新たな課題が生まれてくる。その最大の件は「介護保険制度」から生まれてくる矛盾である。施設介護、特に特別養護老人ホームの介護にとって介護度の改善は施設収入減につながる制度的矛盾の問題である。
介護保険はそれまで介護は家庭で担っていたものを社会全体の問題として介護を家庭問題から社会全体問題への必要が生じ、それを保障する制度として「介護保険制度」が生まれた。その制度設計の根幹は「介護必要度」であり、それに応じるサービス提供を保障する制度、その為の保険制度なのである。
言葉を変えていえば「介護度」とは「介護必要度」となり、介護する側から言えば労働力投下量を計る尺度となるのである。それは介護度があがればそれにかかる労働力の投下量も増え、必然的に必要な費用も増加するのである。介護保険制度を単純化してみれば以上のような制度である。
一方、人は加齢とともに他人の世話になる量が増えるのも自然なことであり、従って人は加齢とともに介護度があがるのは当然のことである。以上のことを前提にした基準で制度設計されたのが介護保険制度である。このことは人が加齢とともに「病者」等に近づいていく自然過程から見れば如く当たり前のことである。
このことがあるからこそ、国は2025年問題を語り、介護保険制度ひいては社会保障制度の財政的破綻回避の為の政策施行を重点化しているのである。その象徴的合言葉として「地域包括ケアシステム」が語られてもいる。それは2025年問題は単なる財政上の対応策で解決する問題ではなく、社会システムそのものの問題としてとらえているのである。
この状況の中、私どもは4ヵ年弱の自立支援介護の実践の中、一つの確信を得るに至ったのである。それは「介護の方法によっては要介護度は改善する」との確信である。
それは何も人の自然過程に抗するという意味ではない。ただ介護は要介護者の自立に向けた努力を励まし支えることに徹し。しかもそれに向けた専門技術の開発があれば可能であるとのことである。このことは現在に於ける介護を語る世界の反省でもある。私どもの4ヶ年弱のささやかな経験の中で常に感じていたのは介護の必要性は多少なりとも「介護」から生んでいたり「医療」から生んでいたのではないかとの思いである。
一方、先に掲げた2025年問題解決に向けた施策の中に何らかの型で要介護状態の改善はあり得るし、それを施策の一部分でも取り入れ、そのうえで2025年問題に向けた制度設計の改善が出来ればと思い、私どものささやかな実践を報告し続ける所存です。


Ⅱ.〈具体例〉

 そのために要介護改善ケアの推進施策が実施されている実例をまず整理していきたい。それは大別すると国の動きと地方自治体の動きに分類でき、地方自治体の動きも2種類に分類はできる。

1.まずは地方自治体の動き

①「経済特区構想」として 岡山型持続可能な社会経済モデル構想総合特区

(AAA“トリプルA”おかやま)

目標 「高齢者が住み慣れた地域で生き生きと暮らす事ができる社会モデル構築」
事業目的として、第一に介護保険への成功報酬の導入事業

(通所介護通所リハビリテーション)
第二に介護予防教室への参加による保険料軽減
第三に在宅介護を可能とする最先端介護機器の活用
第四に在宅に特化したサービスの創設
(レスパイトケア)推進事業
第五にお泊まりデイサービス業者への規則強化

などの具体策の施行を通し、上記目標を達成するとして現在進行中。


②自治体による条例化に
イ.東京都品川区
平成24年より実施されている制度
平成15年度に区内特別養護老人ホームが中心となり自主的な研究組織をつくり、区と協力関係のもと10ヶ年にわたり施設サービスの品川区標準としての自己評価を毎年実施し、施設全体でのサービス向上、質の向上に取り組み、その結果としての条例化である。
それは、平成25年4月1日を基準日とした入所者であって平成24年4月1日に要介護4であった利用者が平成25年5月1日に要介護3と認定され平成26年3月31日までに要介護3を継続した利用者を生んだ施設に対し、1人につき2万円、2段階改善で4万円、3段階改善で3万円の奨励金を支給する制度。
ロ.神奈川県川崎市
「かわさき健康福寿プロジェクトモデル事業」目標として持続可能な介護保険制度への取組み、介護保険給付費上昇の抑制に向けたプロジェクトが企画実施されている。
それは平成26年10月より市内の通所介護、通所リハビリテーション事業所の利用者、特別養護老人ホームの入所者を対象とし
◎要介護度の改善を図った場合や、長期にわたり要介護度を維持した場合、介護サービス事業者に一定のインセンティブを付与する仕組みを構築する。
◎インセンティブの付与により介護サービス事業者の要介護度の維持改善に対する意識が高まる。
◎要介護度の維持改善によりいつまでも「元気なお年寄り」で生活できる。
◎要介護度の維持改善は介護保険の給付費、及び保険料の上昇の抑制につながる。
以上のプラススパイラルの回転を目指してプロジェクトを設置し、27年度から29年度を計画期間とする福祉介護計画に位置付け期間中の具体化を目指している。また、このモデル事業は埼玉県、千葉県、神奈川県、横浜市、川崎市、さいたま市、相模原市が参加する九都県市首脳会議の議題にも取り上げられ共同研究対象にもなっている。
ハ.滋賀県にあっては
「滋賀県民間主導要介護度改善評価交付事業」。平成24年度から平成26年度を事業年度として県内に所在する通所介護・通所リハビリテーション・認知症対応型通所介護を行う事業所を対象にして、要介護状態の改善に取りくみ成果を上げた場合は交付金を支給する制度を実施。


2.国の動き

 総理大臣を議長とし、日本経済再生本部の組織内に設置された「産業競争力会議・医療・介護等分科会」にて検討、公表された今後の介護の方向に関する件に関しては、「介護サービスの質の改善に向けては最終的に事業者ごとのサービスの質の評価を利用者に提供すると同時にサービスの質の評価を活用した介護報酬制度の改革を行い、質の改善に対するインセンティブを付与することを目指すべきである。このためまずはサービス種別や運営形態の特性を踏まえた質の評価に仕組みを作り(評価対象や評価項目、分析手法などの評価、手法、情報公開等)について平成26年度までに検討し、その結果を公表することと指摘されている。それを受けて厚生省は介護保険制度におけるサービスの評価に対する調査検討委員会を設置し、現在に至っている。
そしてその作業が開始されている。それは在宅復帰を目指す「老人保健施設」やケアプランを作成する「居宅介護支援事業所」を調査対象とし、「心身の改善状況」とその「介護方法を通したプロセス」を調査し、そのデータからその関連性を見つけ出す作業を開始しはじめたのである。そしてその結果を次回改定に反映させる方針と聞く。その作業は本年度診療報酬改定にも一部反響はされている。職員のキャリア開発支援、あるいは介護技術の向上の証として介護福祉士の職員数に対する割合とか認知症介護に係る専門的な研修を修了した職員がいる施設の評価とかが導入されている。そして現在、次期改定に向けて、要介護の改善や悪化に対する指標の具体化に向け調査検討を開始している。
だが、厚生労働省は一方でも先に記した地方自治体の先駆的な取り組みに対し冷やかにみている。それは介護度改善に対し、インセンティブを与える型での誘導策は成功報酬制度導入により改善が難しい利用者の受け入れ拒否が生じ、介護認定の改善が見込まれる利用者の受け入れが進むことで利用者選別が行われて、要介護者への適切な支援が要介護認定に結び付くとは思えないとの問題点を指摘されていること。介護保険料は厚生労働省の「介護給付費分科会等の審議を経て全国一律のものとして決定されるべき性質」のものであり、特区制度の枠の中で地域限定的に認める特例としてはなじまない。(PPPニュース2014年No.19)としている。笑止千万である。今更言うまでもないが特区制度はあくまで政府の枠組みの中であり、特定の地域での規制改革を行うことがひいては国益につながるとしたことが特区指定の大前提となり、ある意味では厚生労働省が現在進めている今後の制度改革に向けた調査研究と同根の問題であり、いやむしろ現実的なデータがとれる実験事業とさえ言える。
逆にこのような霞が関のコップの中での検討がすべてであるような風潮が今後の介護保険制度を改定していく上でボトルネックにならないことを願うばかりだ。



Ⅲ.〈「介護度改善運動」が進まない理由〉

1.利用にかかる費用の問題

 先に記してきた介護保険制度の矛盾:人は加齢とともに介護必要度があがり、それにともなって費用も増大する。それが自然な流れである。その流れに竿をさす要介護の改善の動きがいまだに社会的合流を得ることが出来ず、何か特別なことと見られたりしている。その現れが本年の診療報酬改定にも見られた。本年4月に改定された診療報酬制度によると特別養護老人ホームは原則介護度3以上の利用者のみが入居可能となった。
それは膨大な人数の入所待機者、しかも増える一方のそれである。その解決策としての介護度による入居制限である。
厚生労働省の調査によると全国52万4千人の入所申込者があり、そのうち在宅者が26万人、在宅以外26万4千人であり、そのうち66%の人が介護度3以上であるとされている。このような状況ゆえに入居制限をかけざるを得ないのであろう。だが、問題なのは一部の特例は別として入居選定基準が介護度の比重が重くなり、もう一方の切実な問題、支払能力の問題との兼ね合いが蚊帳の外に置かれる危険性を含んでいる事である。
国はそれを特例入居者として枠を作ったが、その人が入居するには現実的なハードルは高いのである。このような入居の為のハードルは当然介護度改善の為の努力を無駄なこと、あるいは邪魔なこととして位置づけられる。せっかく入居した入居者は介護度の改善があり、仮に介護度2になったら追い出されると思うのは自然なことなのである。
従って、利用者や家族は介護度改善運動に抵抗し、介護度が下がることに対し、努力を払うことは当然の事であろう。
人は特養に入居することは誰ひとりとして望んで入居している人はいない。誰しもが「仕方なく」入居したり、入居待ちをしたりしているのである。それぐらい現代社会では家庭介護力が崩壊し、身内の介護の為家庭解体も常態化しているのである。その結果、入居者は自然の成り行きにより介護必要度が上がり結果的に特養は「終の住処」としての役割が固定化するのである。
国の制度も日に日にその方向を強めている。この状況の中では介護度改善あるいはそれを目指す自立支援介護等は陳腐なことなのであろう。


2.進まない理由その2 住まいの問題

(この件はⅤ章で記述)



Ⅳ.〈要介護改善の現実〉

 先に記した東京都品川区のモデル事業の結果をみてみよう。区内特別養護老人ホームや介護老人保健施設等10施設(入所者761人)が参加し、先に記した改善運動を実施し、その結果、全体の6.3%にあたる47人が要介護の改善が確認され、そのうちわけは
「要介護4から3」が18人
「要介護3から2」が13人
「要介護5から4」が9人
「要介護4から2」が3人
「要介護5から3」が2人
「要介護4から1」が1人
「要介護2から1」が1人
であった。その中では介護度4以上の人も改善があったほどである。例示としては極々少数ではあるが、ケアの方法如何によれば介護度が改善する証明であり、ケアの方法論さえ確定すれば膨大な数の利用者の改善が可能であることを明確に示唆し、その先は介護に掛かる総費用問題をも左右する重要な要素を含んでいる事の証明でもあろう。それよりもまして介護度の改善が可能となることが常態となれば今後の2025年問題がいかに明るい問題なのかが明示できることに他ならない。また、この件は何も品川区の実験事業だけではなく、全国老人福祉協議会主催の自立支援型介護の10ヶ年以上におよぶ介護実践の結果も証明している。
それは全国100ヶ所弱の特養でいわゆる「おむつゼロ」施設を達成したと聞く。おむつゼロ施設とは施設入所者全員がそれまでの「おむつ」への排泄からトイレでのそれに変わる施設の事を言い、言い換えればそれまでの寝たきり、寝かせたきりの施設処遇から、利用者の活動性を上げた施設の基準として「おむつゼロ」を基本化した運動である。それは当然介護度改善運動と言い換えることができる。このような先例からしても介護度の改善は実現可能だし、現実に実現していることなのである。ただそのことが社会的合意、あるいは常識とはなっていないことに問題があるのである。また、先に記した厚生労働省の近視眼的視座ではなく、この先駆者のデータを分析し普遍化する論理の構築を強く切望している。



Ⅴ.〈住まいの問題〉

 厚生労働省の調査によると2013年は全国52万2000人の待機者であると発表した。またその申込み理由は「本人の状態が変化し、自宅での生活が困難となったため」しかも「家族が介護を続けることが困難となったため」との理由がほぼすべてである。このような必要性の中で膨大な数の待機者数である。この現状を費用の点から見てみよう。
イ. まずは特養
平成26年度3月の厚生労働省の調査によると特養施設数7,982施設の中で、サービス受給者数52.1万人要介護4、要介護5の入所者数は全体の67.8%、要介護3を合わせると88.1%になる。また、その入所者の所得状況は80%の入所者が低所得者である。
それは利用者負担段階で第1段階、第2段階、第3段階の入所者が80%を占めており、いずれの利用者も市民税非課税世帯なのである。
そのうちわけは
第1段階・・・・6%
第2段階・・・・57%
第3段階・・・・16%
第4段階・・・・18%
である。
費用はそれぞれの利用者の介護度あるいは個室なのか多床室なのか、あるいはユニット型個室なのかにより額は変わるが先に記した第1段階から第3段階の利用者で月額6万から9万、第4段階で約8万から13万の利用料金である。また、高齢者の住居の安定を確保するとし、国交省、厚生労働省の共管制度として創設した「サービス付き高齢者向け住宅」は建設補助金を出し建設を促していますが初期費用としてゼロから数百万円、月額費用10~30万程である。
老人保健施設は要介護度、部屋の種別、利用者負担段階等により、費用は当然違いますが7万~20万の費用がかかります。有料老人ホームはそれこそ10万以下から50万弱の施設郡であるが一般的な相場としては10~15万前後である。しかし、その中には介護保険にかかる費用は含まれてはいない。以上の様な入居費用が一般的である。
特養に入所している利用者は現実的には費用の点からも特養を出ることが出来ないのである。これが介護度改善運動が進まない大きな理由なのである。この高齢者の住宅問題は先日発生した神奈川県川崎市の簡易宿泊所の火災にて私どもの前に現実が露呈されたことでもある報道によれば焼け出された宿泊者、あるいは不幸にして犠牲になった人たちは高齢者であり、しかも生活保護受給者多数。聞けば、1泊2000円であるとのこと。1ヶ月にすると宿泊費として6万円、これは同様の所得の人が支払う特養入居者よりも高額なのである。特養入所者は食事つきである。こうであるために一旦特養に入所すると出る場所、あるいは退所する場所がなく居場所を見つけるのは絶望的なのである。
(この高齢者の住まいの問題は改めてまとめて考えようと思っております。)

以上の要件が介護度改善を進めていく上でのハードルでありこのハードル越えを実行することが私どもに嫁せられた2025年問題であるような気がしてならない。



2015年6月16日
金澤 剛


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